最高裁判所第二小法廷 昭和41年(オ)1285号 判決 1967年3月31日
上告人
上野山兼蔵
右訴訟代理人
伊藤秀一
吉村修
被上告人
石川睦之
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人伊藤秀一、同吉村修の上告理由第一点について。
原判決の所論の事実摘示ならびに判断は相当であり、これに所論の違法は認められない。論旨は採用することができない。
同第二点について。
賃借地の無断転貸ないし借地権の譲渡を賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事由は、その存在を賃借人において主張、立証すべきである(昭和四一年一月二七日当裁判所第一小法廷判決・民集二〇巻一号一三六頁参烈)。論旨の見解は採用することができない。
同第三点について。
信頼関係を破壊するに足りない特段の事情あるものということができない旨の原判決の判断は、本件事実関係に照らして相当である。賃貸人が、無断譲渡ないし転貸がされた結果賃料の支払に不安を感ずる場合にのみ信頼関係が破壊されたと解さなければならないものではない。論旨は排斥を免れない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外 色川幸太郎)
上告代理人伊藤秀一、同吉村修の上告理由
第三点 原判決は信頼関係を破壊するか否かについての法的判断を誤つている。
(一) 原判決は本件土地が借地法の適用される土地であることを認定していが、借地法の適用される土地については、無断転貸ないし譲渡といつてもそれが地代の支払に不安を生ずるが如き場合にのみ信頼関係を破壊するものと解すべきである。
原判決はこの点を全く看過している。
即ち、借地法の適用される土地についてはその存続期間中は土地所有権は経済的にはほぼ地代請求権と同一の効果をもたらすといつても過言ではない。従つて地上の建物の所有権が移動したとか、新しく建物が建築されそれが他人名義に保存登記されたとかいつても、賃借人が建物を所有し、或はその名義で保存登記が為されるのと敷地の使用収益の態容に何等変化をもたらすものではない。
本件の場合でも上告人の名義で保存登記を為して訴外森倉に建物を賃貸していたならば何等問題はないわけである。
それ故に借地法の適用ある土地については建物所有権の移転等により右に述べた地代の徴収に不安を生ずるが如き事情を生ずる場合にのみ信頼関係を破棄する事由となり得るのである。原判決はこの点を全く看過しているものといわなければならない。
本件において上告人は地代の支払を遅滞したことは一度もなく、且つ森倉への転貸ないし譲渡により上告人の地代支払能力とかその態度にはいささかの影響もあり得ないのである。
(二) 本件土地の内原判決表示第三の建物は他の部分とは別個独立に使用され得るもので、このことは現に右第三の建物が他の建物とは構造・用法ともに全然別個で完全に独立の建物であり、本件土地の他の部分を通行等に利用する必要のない点からみても明白である。
そして第三の建物の建坪が登記簿上一〇坪五合(三四・七一平方米)であつて、第三の建物の敷地としての利用面積が若干右建坪を起えることがあつてもそれは原判決も認定している如くたかだか本件土地一四三坪二合九勺(四七三・六八五平方米)の一割五分程度である。
かかる状態の下で本件土地全部について背信行為があつたものと為す必要は全然存しないのである。
更に原判決は「本件土地は登記簿上一筆の土地として登載せられていることは成立に争いのない甲第一号証により明らかであり、かつ前認定のとおり一個の契約をもつて一括して賃貸せられたものであるから……」(理由第四項(一)(1)とし、一筆の土地を一個の契約で賃貸借された場合一部の解除は認め得ないと解釈している様であるが、一筆でも広範な土地もあり、この点を考え合わせるならばかかる解釈が全くの誤解であることについては多言を要しないであろう。